STAY IN ISE

伊勢で古民家を2棟買い、
宿として再生するまで

2026年7月、三重県伊勢市で、古民家を再生した一棟貸しの宿を2棟オープンしました。

なぜ民泊なのか、なぜ伊勢なのか、そしてなぜ2棟なのか。個人的な話になりますが、宿が生まれるまでの経緯をご紹介します。

民泊に乗り出したきっかけ

きっかけは2025年2月頃のことです。会社を辞めて独立してから7年ほどが経ち、コロナ禍にはスマートフォンアプリの開発に挑戦したこともありましたが、その後は目の前の仕事に追われる日々。「そろそろ何か新しいことに挑戦したい」と考えていたところに、知人から「古民家の再生に興味はありませんか」と声をかけていただきました。

最初はあまりピンと来ていなかったのですが、まずは話を聞いてみようと、その知人の紹介で、Zoomでお話を伺うことになりました。

ご紹介いただいたのは、中部地方で歴史ある街並みを残す活動や、古民家を再生して民泊として活用する取り組みをされている方でした。愛知県を中心に、三重県の伊勢や鳥羽も活動範囲にしていると伺い、私はすぐにこの話に引き込まれました。

私の親は伊勢の出身で、実は私自身も三重県の生まれです。1歳になる前に神奈川県へ引っ越したため、当時の記憶はありません。

それでも伊勢は、子どもの頃に毎年帰省していた、なじみ深く大好きな土地です。そして、伊勢神宮という、これからも変わらず多くの人が訪れ続けるであろう場所がある土地でもあります。

その打ち合わせの場で「伊勢でやりたいです」とお伝えし、物件探しが始まりました。

あの頃の悔しさへのリベンジ

祖母が暮らしていた伊勢の家は、1900年に建てられた、伊勢の街並みによくなじむ立派な古民家でした。

私が高校生のときに祖母が亡くなり、その家は空き家になりました。その後、地元の企業などに活用していただいた時期もありましたが、私が20代の頃に取り壊されることになりました。

「何とか残す方法はないだろうか」と考えたものの、当時東京で会社勤めをしていた私には、時間的にも資金的にも、その建物を維持する力はありませんでした。土地は売りに出され、今は駐車場になっています。

親戚には話していませんでしたが、私にとっては悔しい思いとして、ずっと心に残っていました。

それから長い年月が経ち、思いがけず舞い込んできたのが「伊勢で古民家を活用した事業ができるかもしれない」というお話です。

正直に言えば、「古民家再生」や「民泊」という言葉を聞いた時点では、伊勢のことは思い浮かんでいませんでした。それでも、あの頃の記憶が一気によみがえり、これはやるしかないと心が決まりました。

リベンジと呼ぶのは少し大げさかもしれません。ただ、何かに導かれているように感じ、これもきっとご縁なのだと思いました。

こうして、民泊の開業に向けた準備が始まりました。

2棟になったのは、思いがけないご縁から

民泊も古民家再生も初めての経験でしたが、結果として、いきなり2棟をオープンすることになりました。

もともとは1棟だけ購入するつもりでした。資金にも限りがあり、ノウハウもない中で、伊勢に集中して投資することへの迷いもありました。

本命の物件のほかにも、いくつか候補の物件を見ていました。本命の物件をお譲りいただけることが決まり、候補物件の売主さんに購入を見送る旨をご連絡したところ、「仲介手数料分の金額で構わない」とのお申し出をいただき、ほとんどお譲りいただくような形になりました。

物件探しを手伝ってくださった方に「どうしますか」と尋ねられ、気づけば「これもご縁だ」と、勢いのままに購入を決めていました。

こうして2棟を購入し、リフォームを同時に進め、2026年7月下旬に2棟そろってオープンを迎えました。

改装前と改装後

河崎 -湊- Minato

Before 改装前の湊の中庭。苔むした庭石と植栽
After 改装後の湊の中庭。五右衛門風呂風の露天風呂とすだれ屋根
中庭を露天風呂に
Before 改装前の湊の座敷。丸窓と板の間のある暗い和室
After 改装後の湊の寝室。丸窓を残し、白い壁と新しい畳に
丸窓の座敷を寝室に
Before 改装前の湊の二間続きの和室
After 改装後の湊の寝室。襖を張り替え、布団を敷いた和室
寝室
Before 改装前の湊のトイレ。古い便器と板張りの壁
After 改装後の湊のトイレ。白い壁と木の床の明るい空間
トイレ

朝熊 -稜- Ryo

Before 改装前の稜の1階の居室。障子と板の間
After 改装後の稜の1階の居室。畳敷きに座卓と座椅子
1階の居室
Before 改装中の稜の1階の居室。床をはがし床組みがむき出しの状態
After 改装後の稜の1階の居室。畳と座卓を置いた広い和室
1階の居室 ― 床組みからやり直し
Before 改装前の稜のキッチン。給湯器と古い流し台のある板張りの部屋
After 改装後の稜のキッチン。ステンレスの作業台と家電をそろえた明るいキッチン
キッチン
Before 改装前の稜の階段下。雨戸の閉じた暗い廊下
After 改装後の稜の浴室。半露天の浴槽に続く洗い場
階段下を浴室に

伊勢、いい街ですよ

準備は想像以上に手がかかり、費用も時間も予定を上回りました。本業が忙しい時期に何度も伊勢へ足を運び、家具や家電、備品をそろえるなど、本当に大変な日々でした。この間の出来事をお話しし始めたら、とてもここには書ききれません。

それでも、楽しい時間でした。

ご縁に身を任せて一歩を踏み出したからこそ、普段の生活では得られなかった経験、出会えなかった方々、見られなかった景色に、たくさん触れることができました。

2棟ともオープンした今は、お客さまをお迎えするたびに新しい出会いがあり、毎日を新鮮な気持ちで過ごしています。

近隣の皆さんも、清掃をお願いしている方々も、周りのお店の方々も、本当に温かい方ばかりです。

多くの方に支えていただき、なんとかオープンを迎えることができました。

伊勢と聞くと、多くの方が伊勢神宮を思い浮かべるでしょう。ですが、伊勢には神宮以外にも見どころがたくさんあり、観光地だけではない街並みも、そこに暮らす人たちも、とても魅力的です。

もし、どこかへ旅行に行こう、伊勢に行ってみたいと思われたときに、「そういえば、小林が伊勢で何かやっていたな」と思い出していただけたら嬉しいです。いつか湊や稜にお泊まりいただける日を楽しみにしています。

小林 慶志郎